「TOEFL」 導入案に関して

2013年 5月 21日
作者: 代表 高山和子

この春 自民党の教育再生実行本部が、大学入試の受験資格として米国の英語力試験であるTOEFLを導入することを提案した。 TOEFLは「読み、書き、話す、聴く」の4技能を試験するもので、これを導入することで、英語のコミュニケーション能力を高め、海外への留学希望を促進し、将来グローバル社会で活躍できる人材を育成することを目指すものである。 最近のTOEFL受験者の資料によると、アジアの23か国中 日本人のスコアーは20位という低い結果であったことや、近年 留学希望者が減少したことなどから、どうしたら英語の実力を高めることができるか政府も躍起になっているのであろう。 しかし、私は、TOEFL導入には反対である。 このような生徒の現状にそぐわない試験を導入すると、教育現場を破壊するばかりか、生徒の英語の実力に格差が増え、益々英語嫌いを作りかねないからだ。

そもそも、TOEFLは、英語圏、とくにアメリカの大学や大学院の授業についてゆけるかどうかを調べるテストで、話す、聴くだけでなく、大学のテキストレベルの長文をいくつも読み、筋道の通った英語でエッセイを書かせられるので、大変 高度な読み、書き能力が必要とされる。 私も、大学4年生の時、アメリカの大学院に進学するためにTOEFLを何度か受験した経験があり、その当時はリスニングを含む筆記テストだけだったが、大量の長文に大変苦しんだことを覚えている。 教科書の限られた量の長文に接するだけで、英語の本の一冊も読破したことがなく、センターの2回放送される簡単な短いリスニングで苦戦しているという生徒さんであれば、このTOEFLは何倍も難しい。 ちなみに、中高の指導要領で求められている単語数は3千語だが、TOEFLには、1万語水準を超す学術記事でお目見えするような難解な単語が頻出する。 英検1級かそれ以上レベルの文系、理系に渡る長文が幾つも出題されるので、こんな難解なレベルの文章を無理やり読まされると生徒も英語嫌いになる。 また受験料が2万円以上もすることから、何度でも受験料が払えたり、受験のために特別なレッスンを受ける金銭的に余裕のある家庭の生徒さんと、そうでない生徒さんの間で実力に大きな格差が生じるであろう。 それに、導入なんてことになると、このレベルを指導できる教師は英検1級か、それ以上のレベルの日本人教師か、TOEFLには文法問題も出題されることから、英語をよく知った文法に詳しいネイティブの教師となり、ほとんど指導出来る者がいなくなるであろう。 現実と理想との間の隔たりがあまりにも甚だしいのだ。

ais064toefltestsht-0001もし TOEFLを大学入試に導入するのであれば、英語教育の根本を見直す必要がある。 その上で、10年または15年後にこの試験を導入することは可能であろう。 まずは、1クラスの規模を小さくし、教員の数を増やすことが先決だ。 そして小学校1年から英語を必須科目とし、プロの英語の教師が指導に当たる、現在の中学校の内容は小学校で学び、高校の内容は中学校で学ぶ。 教科書は文法事項や必須単語を学ぶために参考に利用し、生徒のレベルにあった読み物を課題読書とし、英語の基礎をつくる読みの力をつける。 その際も一字一句訳すような細かい作業は省き、定期テストでは、教科書に出てくる文を暗記させるような面白みにかける内容ではなく、すべて実力を試す内容にする。 そうすると、生徒は 学校の授業を離れても自主的に英語と接するようになるであろう。基本的な文法事項を中学校で学び、高校では 内容を汲むことに重点を置いてとにかく量を読ませる。 英語の書き物を 自ら楽しんで読めるようになると、語彙力もつき 自然と英語のセンスが身に付き、発言力もついてくる。 また英語による簡単なディベートを導入することで、自分の意見を発信することに慣らすことも必要であろう。

学校教育は、生徒が将来海外の大学で学習したいとか、仕事で英語が必要となった時、自力で頑張ってその必要とされるレベルまで到達できるための基礎づくりをしなくてはいけない。 その為にはもっと今の何倍も英語に時間を費やす必要があり、英語を読むという地道な学習によって語彙も増え、自分の意見が発言できるようになり、英語の基礎ができた段階でやっとTOEFLを受験するレベルに到達できるであろう。 私も 英語を教える立場の者として、そして自ら苦労して英語を習得した一学習者として、英語ができる日本人がもっと増えることを願っている。 そのためにも 政治家の皆さまには、あまりに現実離れした難題を出さず、もっと英語教育の問題点を根本から見直して頂きたいと願っている。

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代表 高山和子 について

岡山県 津山市出身。英語講師。米国ドレーク大学大学院修士課程修了。帰国後、英語教育に携わり、'90年津山市にライト外語スクールを開校、本物の実力を身につけさせる指導に定評がある。国際ロータリー財団奨学生、英検1級、TOEIC 990点、国連特A級。 フル・プロファイル